火星に生物? 有人火星飛行の実現はいつに? [宇宙のロマン]

火星に生物がいた!

と言っても、H.G.ウェルズが「宇宙戦争(The War of the Worlds-1898年)」で描いた、例のタコみたいな火星人ではありません。

H.G.ウェルズが描いた火星人
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火星に果たして生命は存在するのか?
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   BBCニュースによると、メキシコの科学者グループは、1976年にNASAが火星に送りこんだ探査機(バイキング1号、2号)による火星地表サンプル検査結果による”火星に生命はいない”という結論は間違っている、と発表しているそうです。

 

バイキング探査機の話しはかなり前のことなので、少々年配の方でないと記憶にないと思いますが、この二つの火星探査機はランダー(軟着陸部分)を火星表面に降下し、各種測定装置によって大気構成などの測定を行うとともに地表サンプルを採集し炭素に富んだ分子の存在― つまり生命の有無を調査しましたが結果は”無”であったため、火星には生命は存在しないという結論に達したものです。
 

バイキング・ランダーによる火星調査
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  しかし、メキシコ国立大学の科学者グループはバイキングのランダーは着陸地点に存在したかも知れない生命の存在を示す物質(炭素に富んだ分子)は着陸噴射により破壊されてしまった可能性があると主張しており、その証拠として同じくNASAが2008年に火星に送りこんだフェニクス・マーズランダーは火星北極地域の地表に塩素をふんだんに含んだ過塩素酸基(perchlorate)の存在を発見したことを挙げています。

このフェニクス・マースランダーの発見に基づいて、メキシコの科学者チームは”過塩素酸がバイキング・ランダーの着陸地点にも存在した”と仮定して着陸シュミレーションを行い、地表がランダーの逆噴射ガスで熱せられたのと同じように熱したところ化学反応により、二酸化炭酸ガス(CO2)、クロロメタン(Chloromethane)、ジクロロメタン(Dichloromethane)が発生。

そしてこれらの一連の化学反応は、地表の有機物質をすべて破壊し尽くしただけでなく過塩素酸をも破壊してしまったのです。これらのシュミレーションは、火星地表にもっとも似た環境であると思われるメキシコのアタカマ砂漠で行われました。


      フェニクス・マーズランダーは過塩素酸基の存在を発見 
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火星に似た環境であるといわれるアタカマ砂漠
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米航空宇宙局(NASA)のエイムズ研究所の宇宙生物学者、クリス・マッケイ氏は、「メキシコで行われた実験結果は、火星に生命が存在するかどうかといった根本的な問いに対しての回答にはならないが、我々はどのよな方法で生命の存在を確認すべきかという問いに対しての回答になる」とコメントしています。マッケイ氏は有機物は生命体をその根源とするものと非生命体を根源するものがあり、隕石などにも有機物が発見されると指摘しています。(では、隕石の有機物はどこから来たのか、というニワトリと卵のような議論になりますね)

過塩素酸は塩素と酸素からなる分子であり、火星地表に数十億年の間存在し続けたかも知れず、ランダーの逆噴射ガスによって活性化(この表現が正しいかどうか分かりませんが)し、地表に存在した全ての有機物を破壊したかも知れないのです。
そしてNASAの科学者たちがバイキング・ランダーから送信されてきた火星地表サンプルの解析データーの中に塩素を含む有機物を発見したとき、彼らはランダーに積載されていたクリーニング液(測定装置などの?)が漏れて地表を汚染したと勘違いしたかも知れないのです。

現在のところ、火星表面に存在する有機物は火星で合成されたものか、または他の天体から隕石によって火星に運ばれたものか判明していません。それは来年(2011年)にNASAが打ち上げを予定しているマーズ・サイエンス・ラボラトリーによる調査結果を待つしかありません。

マーズ・サイエンス・ラボラトリーは広範囲にわたって地質などを調査する能力をもつ
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  火星に生命が存在するかどうかについては、昔からいろいろ議論されて来ました。
古くはイタリアの天文学者ジョバンニ・スキャパレリが火星に運河を発見し、火星全体の表面に線状模様があることを発見し、Canali(イタリア語で溝・水路)と記述したものを、カミーユ・フラマリオン(フランスの天文学者)が翻訳する際にCanal(フランス語で運河)と誤訳し、「それは運河である」ということになってしまったそうです。(これには異説があり、フラマニオンは実際に人工構築物が火星表面にあると信じていたという)

人類が火星で知的生物に遭遇する可能性はあるのだろうか?
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  シンデレラのガラスのシューズと同じですね。
シンデレラのシューズは原作では、velours(ビロード)だったのが翻訳するときに間違ってverre(ガラス)と訳され、あとで間違いに気づいたけどガラスのシューズの方がカッコいいのでそのままになってしまったと言われていますからね。

それで火星の運河の話にもどすと、運河と言えば人工のもので、当然、”知的生物”しか作れないわけです。
”火星の知的生物=火星人” という法的式になって、火星には火星人がいるということになってしまったようです。
 

        運河があると考えられていた時代の火星儀
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   また、運河は火星全体を覆うように縦横に張り巡らされており、これほど大規模な施設を建造できるなら、火星人は地球人よりはるかに進んだ文明を持っているという説も出され、当時はかなり議論されたようです。
火星人の存在をもっとも強く主張した科学者の1人が米国の天文学者パーシヴァル・ローウェルで、数多くの精密な火星の運河スケッチを残していますが、20世紀に入り観測技術が進歩するにしたがって”火星には運河はない”と一応ピリオドが打たれたようです。

ローウェルの火星運河スケッチ図
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   では、過去において幾人もの天文学者が観測し、スケッチ(当時は写真撮影が困難だったため)まで残した運河のようなものはなにか、という問題になりますね。 火星観測が頻繁に行われ始めた19世紀の天体望遠鏡の性能は当然精度が良くなかったために、火星表面の峡谷や地表の模様が「運河」に見え、これに観測者自身の(火星人が存在するという?)主観をまじえて描かれたというのが真相のようです。

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   当然、火星表面の筋は運河ではない(火星人は存在しない)という考えをもった天文学者もいて、その中にはフランスのムードン天文台のE.M.アントニアジがいて、かなり客観的で精密なスケッチ(写真ではありません!)を描いています。
それにしても、これらのスケッチは何年かかって描いたのか知りませんが、火星表面(模様)の変化はすごいものですね。
自転によるものと思いますけど、たいへん興味深いものです。

E.M.アントニアジの火星スケッチ
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火星への有人飛行計画
 
 
  火星に知的生物がいないとして、月の次に人類が有人宇宙船を送り込むのは火星であり、米国、ロシア、ESA(欧州宇宙機関)などが計画を立てています。 米国は、今年4月にオバマ大統領が2030年代に火星へ有人飛行を送り込む計画を発表しています。

NASAは火星有人探査を目標として原子力推進ロケットを開発中(Credit: NASA
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           ESAの有人火星探査計画
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  ちなみに火星の直径は地球の半分くらい、重力は地球の40%ほどしかなく、表面積は地球の約 1/4。
質量は地球の約 1/10 しかありませんが、火星には海がないためその表面積は地球の陸地の面積(1.5億平方km)とほぼ同じです。また、火星の自転周期は地球のそれと非常に近く、火星の1日は24時間40分です。 気温は最高が(赤道付近)27℃程度、最低がマイナス70℃、平均気温が50℃程度なので、大気がないため日中は灼熱地獄(赤道付近で約110度)、夜は寒冷地獄(赤道付近でマイナス170度)という月よりずっとマシです。


ただし問題は距離です。

月までの距離が40万キロもないのに対して、火星までは何ともっとも接近した時(近日点)で約6000万キロ程度、もっとも離れた時(遠時点)には1億キロにもなるため、従来の化学燃料を推進剤とするロケットでは積載する燃料の量も膨大となるほか、燃料効率も悪く、飛行時間を短縮するための大推力も得にくいのです。
 
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  これらの理由から、火星への有人飛行には原子力推進ロケットが最適と考えられており、先に述べたオバマ大統領の有人火星探査も原子力推進ロケットが使われると予想されています。米国のこの計画はまだ初期段階にあると見えて、NASAのサイトでも火星行き宇宙船の完成想像図といったものはまだ見当たりませんが、概要は推進は原子力エンジン、また乗組員を放射能による被爆から保護するため居住区は原子炉から遠く離れた設計にする必要があるため、米国のニューメキシコ大学による設計例では全長約100メートル、重量約400トンという巨大なものになっています。

あまりにも巨大なため、パーツを打ち上げて宇宙空間で組み立てられるようですが、全長100メートル、居住区が原子炉から離れたところにある、宇宙空間で組み立て、などというところは『2001年 宇宙の旅』のディスカバリー号とまったく同じです。これから見ても、いかにアーサー C.クラークに先見の明があったか分かるというものですね。

『2001年 宇宙の旅』のディスカバリー号
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ポジトロンエンジン積載の惑星間宇宙船(Credit: Positronics Research, LLC)
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 また、火星への有人飛行は、原子力宇宙船というハードをクリアするほかにも、往復520日かかると言われる(関連記事)長期旅行における宇宙船乗組員の精神面の健康維持が問題となります。すでにロシアでは今年6月より6人の男性を520日間にわたって模擬宇宙船の中に密閉するテスト、「マーズ500」を開始しました。この模擬宇宙船の居住区のスペースは550立方メートルあるというから大きそうですが、一辺が8メートルにしかならないというから6人(男性ばかり[たらーっ(汗)])が生活するスペースとしては決して大きいものではありません。

 「マーズ500」のシュミレーション・モジュラー

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     人類が火星の土を踏むのは早くて30年後?
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 どちらにせよ、人類の火星到着はかなり未来の話しであり、はたして私が生きているうちに達成するかどうか分かりませんが、せめてフィクションの中ででも火星を体験してみようと思います。
ミッション・トゥ・マーズ』(2000年 米国)は、もう観られた方もいると思いますが、たいへん見ごたえのあるSF映画です。
映画『アポロ13』でも好演したゲイリー・シニーズの演技が光っています[るんるん]

 mission_to_mars_movie.jpg  mission_to_mars_8.jpg  

 Mission_to_Mars6.jpg

 

≪終わり≫

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