人類は料理でホモサピエンスに進化した [人類学]

” 料理する 故にわれ考える” 

という面白いタイトルの記事がある雑誌に載っていたのでここで紹介します。

この新学説を唱えているのは、ハーバード大学の人類学者であるリチャード・ランガム(Richard Wrangham)教授で、上述の記事は同教授が著した「Catching Fire: How Cooking Made Us Human」というタイトルの著書の紹介記事です。
 
 
 人類は火を使った料理を食べることによって進化した
 
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紹介記事の要約
 
 
人類はチンパンジーと共通の祖先から500~600万年前に別れたことはわかっているが、ゲノムの比較においては、人類とチンパンジーはわずか0.6パーセントしか違わないのに人類は別種のチンパンジーではなく、他の霊長類とは大きくかけはなれた素晴らしい能力を持つ脳の持ち主である。
古来より科学者や哲学者をして頭を悩ませてきた問いは、進化の途上において何が人類をして人類たらしめる原因となったのか、ということであった。 


                  リチャード・ランガム教授の新著
             Catching Fire: How Cooking Made Us Human
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この問いに対する回答は、人類とチンパンジーの共通の祖先がもたらせてくれるはずだが、残念ながらこの”共通祖先”は俗にミッシングリンクと呼ばれ、化石がほとんど発見されてないため人類学の大きな謎とされていた。
しかし、今までに発見されている化石(化石人類)の調査や他の考古学的調査などとあわせて広く受けいられている説は、人類の進化の途上で決定的な役目を果たしホモ・サピエンスの脳の巨大化をもたらしたものとされている。

人類にとって最初の大きな進化的跳躍は道具の使用だった。
1996年、カリフォルニア大学の考古人類学者ティム・ホワイトは、エチオピアで250万年前の古代人類の化石を発見し、「アウストラロピテクス・ガルヒ(Australopithecus garhi)」と名づけた。この化石とほぼ同じ地層で石器のかけらと思われるものが見つかったことから、人類が最初に道具を使い始めたのは同時期(250万~260万年前)と推定されるようになった。この石のかけらは獲物を狩るための武器には程遠かったかもしれないが、獲物の皮を剥いだり肉を切り分けたりするのに貴重な道具であったことは確かであろう。

近代人の脳の大きさは、個人の体重の2パーセントにしか過ぎないが、エネルギーに関してはなんと20パーセントを消費するという大器官である。したがって、脳の発達が人類の進化に大きなメリットをもたらしたことは疑いない。 しかし、人類進化の途上で何がこのエネルギー大消費器官である脳の発達を可能としたのか― これは研究者たちの間でも長い間議論の的であり疑問であった。
その答えはだった。たんぱく質のかたまりである肉を食料とすることによって、はじめて脳の発達が可能となったのである。

複雑な動きを可能とする「手」、「道具」の使用、そして「食」。
この3要素が古代人類進化のベースとなったのだ。
かくして草食性のホミニドは滅亡し、食のホミニドは生き残り、ホモ・サピエンスへの道へと続く子孫を残してきた。 
しかし、それだけでは説明不足である。なぜなら、チンパンジーも同じように道具を使いを食べるが人間のように進化してない。
  
     
         チンパンジーも人間と同じく道具を使い、狩りをし肉を食べるが...
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ハーバード大学のリチャード・ランガム(Richard Wrangham)人類学教授は、人類を人類たらしめたプラスアルファ要素として、の使用とそれを使った料理をあげている。
ランガム教授は、人類はを使って料理することを覚えたからほかの霊長類より進化したのだと説く。を使うことによって食べものはより長持ちするようになり、またその食料保存メリット以上に料理にを通す(焼く、煮る)ことによって食べものをより消化しやすくし、結果的に栄養素の吸収を効率的にできるようになったということが、人類の進化の決定的要素となった、と近著『Catching Fire: How Cooking Made Us Human』の中で述べている。


               火の利用がチンパンジーとの決定的な差となった
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 同教授は、人類によるの使用とホモ・エレクトスの出現は時を同じくし、およそ180万年前であると指摘している。 
解剖学的に見た場合、ホモ・エレクトスは現代人に近く、かなり発達した脳をもっていた。その脳容量は 900cc(現代人は1400cc)もあった。ホモ・エレクトスは”人類革命”の主役ともいえる存在であった。その大きな脳は、現在でもチンパンジーが生活の場としている森林とは違った、広大なサバンナに散在する食料やそのほかの物質をうまく利用することが生き残ることにとって不可欠な、新しい生活様式のために必然的に発達したのかも知れない。

彼らはその頭脳の中に広いテリトリーのマップを記憶し、腐肉(初期人類は腐肉を食べていた)のありかを示す禿たかを注意して見つけ、自然界に起きる季節の変化等の事象をあらかじめ予知し、計画的に対応するする(冬が来る前に暖かい地方に移動するなど)ことなどを考えなければならなかった。
ホモ・エレクトスはを利用し、協調して狩りをするなどきわめて社会的な集団を作って行動していたことも、脳の複雑性をさらに増したであろうと想像できる。もちろん、これらはあくまでも想像であって確証はない。しかし、確実に言えることは、を利用した料理のメリットである。

「古代人類がを使った料理をしなかったとしたら、私たちは現在もサルやチンパンジーと同じように、単純な道具を使い、狩をし、肉を食べる、霊長類の一種類となっていたでしょう。そして、一日の大半を食べ物の咀嚼に費やし、長い腕と小さな体をの一霊長類となっていたに違いありません」とランガム教授は語る。
「人類の進化において、肉を食べるようになったということは大きな意味がありますが、それよりさらに進化において重要だったのは、を使って料理することを覚えたことです。これにより私たちの祖先は可能なかぎりの栄養とカロリーを摂取することが可能となったのです」

リチャード・ランガム教授は近代人類学の象徴的存在である。彼は有名な英国霊長類学者、ジェーン・グドールの助手として仕事をしながら霊長類の研究をはじめた。ジェーン・グドールはタンザニアでチンパンジーといっしょに暮らしながら研究を続けたことで知られている(映画化もされている)。

             ジェーン・グドールとチンパンジー
             jane_goodall.jpg  
           

ランガム自身、チンパンジーを40年以上研究しており、チンパンジーの生態をよりよく理解できるようにとある朝、パンツ一枚だけで森に入り、チンパンジーと同じように食べ物を探し始めた。多くの場合、見つけることが出来たのは苦い果物とチンパンジーが殺して食い残したサルの生肉だった。
「空腹を感じました」とランガム教授は当時を述懐して言う。彼はこの経験から、を使った料理が人類の進化に極めて重要な役割を果たしであろうということを強く感じた。

「われわれの祖先がチンパンジーと同じようなものを食べていたとしたら、どのようににして生き残ることができたろうと考えました。そして結論として得たのは”そのような生活は不可能だ”ということでした」
特定の例外をのぞいて、を通さない食べ物を食べるものはいない。世界の多くの民族の神話では、の発見を人間文化の始まりの象徴としている。
を使うようになって、われわれの遠い祖先は仲間との関係を変化させたのです。個人はの周りで仲間とともに多くの時間を過ごすようになったのです」とラングラム教授は言う。
「それはチンパンジーのようにどこでも眠り、グループの仲間と衝突があればいつでもグループを抜け出すという習性とは大きく違った生活様式だったのです」
つまり、を使った料理が古代人類を近代人類へと大きく変貌させる進化のバネとなったのである。


火を使った料理によって体に起こった変化

[次項有]大きな脳:咀嚼に使わなくなったエネルギーは脳に向けられた。脳は体重の2%しか占めないが、新陳代謝エネルギーの20%を消費する大器官である。

[次項有]小さなアゴと小さな歯:煮た食物は咀嚼に要した力を軽減した。ホモ・サピエンスより古い化石人類であるアウストラロピテクスは一日の半分を食べ物の咀嚼に消費していた。

[次項有]生存性向上と増殖:食物が豊富な時期に蓄積した体脂肪は、不足がちな時期を生きのびるのに役立った。良い栄養状態は女性をより妊娠しやすくした。

[次項有]短い小腸と小さな胃:食物を煮ることにより、アミドとたんぱく質の分子をさらに小さくし消化しやすくなったことで人類の消化器官は大型類人猿の三分の一となった。


火を使って変わった生活習慣

[次項有]火を囲んでの食事はグループ仲間同士の関係を親密化し、人類がもつ凶暴性を弱めるのに役立った。また年寄りはその経験と知識を若い者に伝えるようになった。
[次項有]火を使うことで猛獣の攻撃から守れるようになり、したがって行動範囲が拡大した。
[次項有]火の使用はオス(♂)とメス(♀)の結びつきを強める効果を生んだ。これは後に”夫婦”という関係になるものであるが、時間のかかる”料理”をしているメスにとって夫がいるということは、ほかの腹をすかせたオスに食べ物を盗まれる心配がなくなるということを意味する。一方、オスにとっては妻がいるということは、毎日食べ物を料理してくれる者がいるというメリットをもたらす。


火を使った料理によって食べ物と消化プロセスが変化した

[次項有]熱はアミドとたんぱく質の分子をより小さく分解する。それにより、栄養素が胃及び小腸で吸収される率は(を通さない場合の)50パーセントから95パーセントへと倍近く増える。

[次項有]ネズミを使った実験では、よく煮た餌をあたえたネズミは同カロリーだが少ししか煮てない餌をあたえたネズミに比べて30パーセント体重が増加することが確認されている。現代人は平均、一日に36分咀嚼に時間を費やす。食べ物を煮た場合、消化に必要とするエネルギーを24パーセント節約することができる。

[次項有]食べ物にを通すことによってバクテリアを殺菌し、ある種の食べ物が持っている毒性を中和することができる。また、不味い植物の根(芋など)の味をおいしいものに変える。


を使った料理がどれだけすごい(栄養学的、衛生的、味覚的)威力をもっているかを知ることができます。
のおかげで人類はチンパンジーと違った進化の道を歩むことができたわけですが、飽食の現代にあっては、ホモ・エレクトスと反対に、なるべく煮ない、焼かない食物をとることが体脂肪の蓄積を防ぐベスト・クッキングと言えるかも知れませんね。

というわけで、みなさん、出来るだけ刺身やサラダを食べるようにしましょうね。


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(この記事はLoby-Mの本家ブログの2009年10月4日の記事から転載しました)
 

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rtfk

申し訳ありません。
今になってこちらがLobyさんのサブブログだと
気が付きました。。。。
これからもよろしくお願いします。
by rtfk (2011-07-04 14:27) 

Loby-M

≫rtfkさん、おはようございます。
 いえいえ、貴ブログを訪問したときの私の説明が足りなかったからです(^^;
どうも申し訳ありませんでした。
サブブログの方もよろしくお願いします<(_ _)>

≫ミソさん、ご訪問&nice!ありがとうございます。

≫mwainfoさん、ご訪問&nice!ありがとうございます。

≫dendenmushiさん、ご訪問&nice!ありがとうございます。

≫kazukazuさん、ご訪問&nice!ありがとうございます。
by Loby-M (2011-07-05 09:02) 

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