宇宙論について考える-宇宙に終焉はあるのか? (4) [宇宙のロマン]

膨張し続ける宇宙ー 宇宙に終焉はあるのか: 宇宙の将来


 2012年の5月に書き始めた、このLobyの宇宙論考察、いよいよ最終回です。
だらだらととりとめのないような感じで書いてきましたが、また新しい発見や理論が発表されて、この考察を書き直すことになるハメになる前に終えてしまおうと思います。また、最初にも書きましたが、私は天文学&天文物理学にはまるっきりのシロウトですので、言葉が足りないところ、もしくは勘違いしているところもあるかも知れないことを再度前もって断っておきます。


宇宙はなぜ始まったのか?

 さて、これまで宇宙論についていろいろな角度から見てきましたが、現在の主流となっている「ビッグバン宇宙論」に関しては、現時点では宇宙の起源を説明するのに最適(もっとも説明しやすい)の理論ですが、だからといって、同理論は宇宙のすべてを解明した訳ではありません。超高エネルギー領域の物理学(量子重力理論や超弦理論)はまだ明らかになっておらず、宇宙の始まりについては実際のとことはほとんど分かってないというのが実情といえるでしょう。

宇宙の卵m

 このビッグバン理論について、おさらいをして見ると、宇宙原理(大きなスケールで見れば、宇宙は一様かつ等方という理論)のもとでは、ハッブルの法則によって宇宙が膨張していることが示されています。さらにこの理論からは二つの違った可能性が推定されます。一つはルメートルが発案し、ジョージ・ガモフによって支持・発展されたビッグバン理論です。
 もう一つの可能性はフレッド・ホイルが唱えた定常宇宙論です。定常宇宙論では銀河が互いに遠ざかるにつれて新しい物質が生み出されため、この宇宙モデルでは、宇宙はどの時刻においてもほぼ同じ姿となります。長年にわたって、この二つのモデルの支持者はほぼ同数に分けられていました。

フレッド・ホイルb しかしその後、宇宙は高温高密度の状態から進化してきたという説を支持する観測的証拠(宇宙マイクロ波背景放射の発見など)が見つかり始めたことにより、ビッグバン理論が宇宙の起源と進化を説明する最も(ビッグバン説を支持する研究者たちにとって、都合の)良い理論と見なされるようになりました。

1960年代の終わり以前には、宇宙論研究者の多くが、フリードマンの宇宙モデルの初期状態に現れる密度無限大の特異点は数学的な理想化の結果出てくるものであって、実際の宇宙は高温高密度状態の前には収縮しており、その後再び膨張するのだと考えていて、このようなモデルはリチャード・トールマンの振動宇宙論と呼ばれます。
しかし、スティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズが、振動宇宙論は実際にはうまくいかず、特異点はアインシュタインの重力理論の本質的な性質であることを示しました(1960年代)。これによって宇宙論研究者の大部分は、宇宙が有限時間の過去から始まったとするビッグバン理論を支持するようになります。ただし現在でも一部の研究者は、ビッグバン理論のほころびを指摘し、定常宇宙論やプラズマ宇宙論などの宇宙論を支持しているのです。

スティーブン・ホーキングとロジャー・ペンローズ


 宇宙の始まりについて、ある説では、宇宙は「無」から生じたとしています。
「無」とは、物質も空間も、時間さえもない状態。しかしそこでは、ごく小さ な宇宙が生まれては消えており、そのひとつが何らかの原因で消えずに成長したのが、私たちの宇宙だというのです。また生まれたての宇宙では、時間や空間 の次元の数も、いまとは違っていた可能性があるとする説もあります。

また、ビッグバンよりさらに時間をさかのぼって、それ以前に起こった現象を解き明かそうとする研究者たちもいます。米国タフツ大学のアレキサンダー・ビレンケンもその一人で、ビレンケンは「ビッグバン理論は、宇宙は火の玉として始まったと説明しているが、その火の玉が、どうして生まれたかということについては、実は、なにも答えていない。」と述べ、それがビレンケをして量子力学を研究し始めた理由となったと言っています。
 ビレンケは「宇宙は広大だが、その起源を探るためには、逆にミクロの世界の法則を知らなければならない」と考えたのです。それは、生まれたばかりの宇宙は、温度が高いため、あらゆる物質が、最小の単位、素粒子に分かれていたはずとビレンケは考えました。宇宙誕生の舞台― それは、一見何もないように見える「真空の世界」であったはずだとビレンケンは仮定し、完全な無の世界のように見える「真空の世界」でも、ミクロのレベルでは、私たちの想像を絶する出来事が起きていたというのです。

アレックス・ビレンケン02  要約すれば、ミクロの世界の力学― 量子力学では、“宇宙は物質だけではなく、時間も空間もない「真空」の中で生まれた” と推定しているのです。ミクロの世界の真空とは、何もない、空っぽの世界ではなく、そこでは常に、時間と空間、つまり「宇宙の種」が生じては消えていく― エネルギーが充満した世界なのです。量子論では、「真空」は何もない空間ではなく、プラスとマイナスがお互いに打ち消しあっている世界だと考えられています。そこでは、ミクロのレベルで見ると、常にエネルギーがゆらいでいる。そして、その「ゆらぎ」の中で、いわば宇宙の種となる物質が生まれることは、十分にあり得るというのです。

 

 

 東京大学の佐藤勝彦教授は、「無の状態から、量子論的効果で生まれた宇宙の大きさというのは、実は、10のマイナス34乗センチメートル程度なのです。陽子の大きさが、10のマイナス13乗センチメートル程度ですから、これと比べても、21桁も小さな宇宙だということになります。この生まれたての宇宙は、すぐに、2倍・4倍・8倍というふうにして大きくなるのですが、それが100回も繰り替えされると、われわれが住むことができるようなマクロな宇宙になることができるわけです。これにかかる時間は、実は、わずかに10のマイナス34乗秒程度なのです。」と説明しています。


講演をする佐藤勝彦教授 と インフレーションモデル
Satoh Katuriko01  インフレーションモデル


  佐藤教授の説明によれば、真空の中で生まれた宇宙の種の大きさは、わずか10-34cmになります。それは、百億分の1センチメートルの一兆分の一のさらに一兆分の一という想像を絶するほど小さい物質です。それが一瞬の内に、光の速さより、はるかに速い速度で膨張を始めたのだと佐藤教授は考えているのです。そして、その膨張が終わったときに、真空のエネルギーが、熱のエネルギーに転換したのです。そしてこれが、ビッグバンを引き起こしたというのです。
 佐藤教授が考案した宇宙の歴史を表すモデル(上図右)があります。このモデルによると、ビッグバンから現在まで、宇宙は膨張を続けていることが表されています。しかし、実は、ビッグバンより前に、宇宙はもっと急速に膨張した時期があるというのが、佐藤教授が主張する「インフレーション理論」です(同理論はアラン・グースによっても提唱されている)。この急速な膨張が、ビッグバンを引き起こしたというのです。


    


 この項のタイトルとしてつけた“宇宙はなぜ始まったのか?”は、科学で追求するテーマというより、哲学で思索するべき大テーマであるかも知れません。“宇宙はなぜ始まったのか?”は、“我々はなぜ宇宙に存在するのか”という問と密接な関係があります。それは、“我々はどこからやって来て、どこへ行くのか?”“我々は何者か?”という、人間が常に問い続けたことに対する答えの追求でもあるのです。
という訳で、以降は少々、哲学&宗教の方から宇宙論について考えてみたいと思います。


 話は少し横にそれますが、最近の調査の結果では地球型惑星はわれわれの想像以上に多いようです。
米カリフォルニア大バークレー校の研究チームは、8月に運用を終えたNASAのケプラー宇宙望遠鏡を使い恒星約約4万2千個を観測。研究チームは、太陽に似た恒星の手前を惑星が横切ると、恒星がやや暗く見えるという原理を利用し、惑星の大きさや恒星からの距離を分析したわけですが、調べた約4万2千個の恒星のうち、サイズが地球と同じか2倍程度で、公転距離が太陽と地球との関係に近い惑星を持つ恒星の実に22パーセントが地球型惑星を伴っていると結論し、そのレポートを科学アカデミー紀要電子版に11月4日発表しています。


 ケプラー宇宙望遠鏡で発見された地球型惑星の想像図(Credit: NASA)
ケプラー望遠鏡で発見された系外惑星



 地球型惑星(生命の存在する惑星)の探査と同様に、科学者たちが大きな関心を示すテーマの一つに、“地球の生命はどこから来たのか?”というものがあります。 古くは1920年代にアレクサンドル・オパーリンが「生命の起源」の発表によって、生命体の構成材料の一つであるアミノ酸は、原初の地球の海の中で、無機分子から有機分子ができ、徐々に大きく複雑な有機分子ができた結果生成され、これにより海で最初の生命が誕生したと唱えました(化学進化説)。この説は現在でも広く受けいられていますが、その一方で、生命体を構成する有機分子については、地球上で生成されたのではなく、地球外から飛んできたのではないかとする説があります。


この「有機分子宇宙飛来説」とでも言える説の根拠となっているのは、1969年にオーストラリア、ビクトリア州のマーチソン村に落下した隕石で、ピペコリン酸といった生体内で見つかる有機酸や、 グリシン、アラニン、グルタミン酸といったタンパク質を構成するアミノ酸のほか、イソバリン、シュードロイシンといった、生体では見られないアミノ酸も発見されたのです。


マーチソン隕石
マーチソン隕石



さらに、2011年にはNASAが、7個の南極隕石を含む12個の隕石を分析した結果、これらの隕石から核酸の構成要素(塩基)であるアデニンとグアニンが発見されたと発表しました。さらに、DNAの構成物質ではありませんが、生命活動で重要な役割を果たすヒポキサンチンとキサンチンという有機物も発見したのです。そしてさらに、2,6-ジアミノプリンと6,8-ジアミノプリンという有機物も見つかりました。この2つの有機物は地球の生命活動では使われず、天然の生物による合成では作られないものです。(参考記事


隕石と有機物



さて、なぜ長々と系外地球型惑星と隕石とともに飛来したアミノ酸や塩基について書いたかいうと、われわれの宇宙には、多分、数多くの(数十億個?数百億個?)の地球と同様に生命を育み、育てる(進化する)惑星があるであろうし、そこでは進化論という当然の法則にしたがって、生物進化のはてに人間と同じような高等生物が生まれ文明を営んでいるであろう、ということを述べたかったからです。それらの太陽系外知的生物の中には、人類よりはるかに進んだ文明をもつものもあるだろうし、石器時代を生きているものもあるかも知れません。ただ、あまりにも距離が遠すぎるため、おたがいに交信ができないだけの話なのです。
同じように、ひょっとすれば、幾人かの宇宙物理学者や量子力学者たちが推測しているように、この世界には無数といってよいほどの宇宙が存在するのかも知れません。
そして、今、あなたがこれを読んでいる瞬間にも、ひとつの宇宙が終焉を迎えているかも知れないし、またこの瞬間に新しい宇宙が誕生しつつあるかも知れないのです。




世界観・宇宙観の背後にあるもの

 人の考え方には、その人が持つ哲学、または宗教が大きな影響をあたえます。
たとえば、日本では武士の時代から、“死は美”のような考えがあり、武士たちはおのれの過ちや上司をかばうために切腹という自殺手段をとり、社会もそれを認め、自殺した者(武士)の遺族を支える手段をとってきました。
その影響は、現在の日本社会でも生きており、自殺者に保険金が出るのは日本だけです。
キリスト教では自殺は罪とみなされ、自殺したものは天国へ行けないと教えられ、保険会社も自殺した者には保険金は支払いません。
一方、近年のイスラム教のある宗派では、自爆テロは「聖なる行為」であり、死んだ後は「天国」に行って美しい女性たちに囲まれて暮らせると教えています。

これらは極端な例かも知れませんが、哲学・宗教というものは、それほど人間の思考&行動に大きな影響をあたえるものなのです。
ちなみに、世界の生成について、先に上げたキリスト教では、「はじめに神は天と地とを創造された。 地は形なく、むなしく、闇が淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は『光あれ』と言われた。すると光があった。」(創世記の冒頭一節)と教えています。

宇宙論を研究し、論文を発表する科学者や物理学者の多くは欧米人であり、彼らの精神の根底には(“世界は神によってある日造られた”とする)キリスト教があります。これが、これらの多くの西欧の科学者たちは、意識するとしないとに関わらず、“宇宙(世界)はいつか(ある日)生じたもの”という考えが根底にあると考えても不思議ではなく、ビッグバンなどの“宇宙生成説”が発表され、それを裏付けると思われる状況的(観測的・理論的)根拠が示されると、たとえそれらの状況的(観測的・理論的)根拠が“最終的な真実”でないとしても、なんとかビッグバン理論を正当化できる(つじつまを合わせれる)状況であれば、それを支持し、宇宙物理などの学会においても主流となってしまったのではないか、と私は考えます。

 このキリスト教的宇宙生成説と対を成すのが、仏教の成住壊空(じょうじゅうえくう)説であり、成住壊空は四劫(しこう)と呼ばれ、一つの世界が成り立ち、そして最後に空に帰するまでを4つに区分した仏教の概念であり、それぞれの区切りは次のようになっています。成劫=世界が成立する期間、住劫=成立した世界が持続している期間、壊劫=世界が壊れていく期間、空劫=すべてが壊れて、存在を失った期間。ちなみに劫(こう)とは長い時間の単位です。
四劫で説く宇宙(世界)観は、宇宙は生まれ(成)、安定期を経て(住)、終末を迎え(壊)、無(空)となる。そしてこのサイクルを永遠にくり返すとするのです。この無限のサイクルは、宇宙と、それに存在するすべての生命や物質が必然的に経る法則としています。
 四劫説は現代物理学においても(一部の科学者だけにせよ)次第に受けいられつつあるようで、“「宇宙」は、物理学的な「世界」全体ではなく、生成・膨張・収縮・消滅する物理系の一つである。理論的には無数の宇宙が生成・消滅を繰り返しているとも考えられている”と説いている理論もあるようです。(Wikipedia「宇宙」より引用)

 上述の説で興味深いのは、「理論的には無数の宇宙が生成・消滅を繰り返しているとも考えられている」と述べられているところで、現在、多元宇宙論、マルチバース宇宙論などと呼ばれている理論では、常に無数の宇宙が生まれたり消滅したりすると説かれています。これらの無数の宇宙は相互作用できないため、観測することは不可能ですが、量子力学ではその存在を予測しています。


《 終わり 》


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参考サイト:Wikipedia「宇宙論」
      アインシュタインの科学と生涯
      マーチン隕石
      生命の起源の探索


      

      



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