すばる望遠鏡、もっとも古い銀河団を発見 [宇宙のロマン]

海外のメデイアは、日本の天文学チームが、今月24日、すばる望遠鏡(ハワイ島)で、これまで観測された中でもっとも遠い127億光年の距離にある銀河団を発見したと報じています。(注:天文学チームは総合研究大学院大学の大学院生、利川潤さんと国立天文台の柏川伸成准教授たち)

同チームは、すばる望遠鏡で観測した約127億光年離れた30個ほどの銀河が密集している銀河団の分布を調査し、このうちの15個の銀河の距離を詳しく測ったところ、8個が127億2千万光年離れていることを確認しました。



すばる望遠鏡  credit:すばる望遠鏡公式サイト
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下の画像をクリックすると本記事に関連する動画が見れます
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すばる望遠鏡の紹介動画


これまで最も遠かった銀河団の距離は、同じくすばる望遠鏡で見つけた126億5千万光年でした。
今回発見された銀河団は、かみのけ座の方向にあり、127億光年という距離は、約137億年前と推測されている宇宙の誕生(これも仮説ですが)から僅か10億年後に誕生した銀河の集団ということになり、今後、宇宙の構造が形成される過程の謎を解く手がかりになるとと期待されているそうです。

ちなみに、米国のハッブル宇宙望遠鏡は、地球から131億光年の距離に銀河の候補を検出したと発表していますが、正確な距離が確認されてなかった、と調査チームは述べています。

  宇宙には、100 個から 1000 個を超えるほどの明るい銀河の集まった「銀河団」と呼ばれる銀河の集団がいくつも発見されています(注:銀河団自身もまた、超銀河団というより大きなスケールの構造の一部を成している)。しかも銀河団はお互いに結びつきあって、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる巨大なネットワークを形成していることが分かっています。

このような巨大な構造はいつどのようにできたか?宇宙はほぼ均質な状態から始まったと言われていますが、その物質の分布にはわずかながらムラがあり、そしてその非常に小さなムラが 137 億年もの時間をかけて重力によって大きくなり、現在の宇宙に見られるような銀河団へと成長し、大規模構造を作り出した、と考えられています。また銀河団は、単に銀河の数が多いだけではなく、年老いた重い銀河が多く存在していることがわかっています。このことからも銀河団は、銀河団を構成する個々の銀河の性質に大きな影響を与えつつ、銀河団自身も大きくなった、と推測されます。銀河団がどのように形成されたのかを知ることは、宇宙の大規模構造と銀河進化という大きな謎に迫るために非常に重要です 。

  銀河団形成の解明のためには、もちろんその誕生から完成までを理解する必要がありますが、利川さんらの研究チームは特に銀河団の誕生に焦点を当てて観測・研究を行なって来ました。しかしその誕生に迫るためには 137 億年の宇宙の歴史を大きくさかのぼる必要があります。宇宙の観測では遠くを見ることで過去の姿を見ることができますが、100億年を超えた距離にある銀河からやってくる光はとても微弱です。また銀河団の誕生に迫るためにはもう一つの大きな困難がありました。それは、周辺に比べて格段に密度が高い特別な領域でしか銀河団に成長できないので、原始銀河団は宇宙初期において非常に稀な天体である、ということです。研究チームはすばる望遠鏡の集光力と主焦点カメラ Suprime-Cam の特長である「広い視野」を最大限活用することで、これらの困難を克服することが出来ました。すばる望遠鏡はかすかな光まで捉えることができる口径8メートルという大型望遠鏡でありながら、非常に広い視野を持っているのです。

主焦点カメラ Suprime-Cam (credit:すばる望遠鏡公式サイト)

すばる主焦点カメラ


   研究チームは、かみのけ座の方向にある「すばる深宇宙探査領域」と呼ばれる天域を観測しました。「すばる深宇宙探査領域」は、すばる望遠鏡が重点的に観測している天域であり、地上望遠鏡では限界に近いほどの弱い光まで捉えることができます。このように広視野でありながらも暗い天体まで見つけることができる「すばる深宇宙探査領域」は原始銀河団を見つけるために最適な天域の一つです。研究チームは、この広い天域において遠方銀河の探査を行い、観測された銀河の分布を調べた結果、遠方銀河の数密度が周辺よりも5倍も高い領域を発見しました (図1)。さらに、すばる望遠鏡の分光装置搭載 FOCAS を用いた追加観測から、この領域に存在する多くの銀河が 900 万光年以内の距離に存在しており、奥行き方向にも集中していることを確かめました。銀河は非常に強く密集しており、たまたまここに銀河が集まっているだけだとは到底考えられません。このことから、発見された銀河の集まりが 127 億 2000 万光年先にある原始銀河団であるということが明らかになりました。これは現在発見されている中で最も遠い原始銀河団です 。宇宙年齢が 10 億年にも達していない宇宙のごく初期における原始銀河団の存在を明らかにしたことから、宇宙の構造形成・銀河進化の始まりを直接観測するとができました。最遠方原始銀河団の発見は宇宙の大規模構造・銀河進化の解明のための重要なデータとなります。

図1
すばる望遠鏡が捉えた127 億年前の銀河の分布。白丸が銀河を表わす。
credit: すばる望遠鏡公式サイト
図1


  発見された最遠方原始銀河団に属する銀河の性質 を調べたところ、原始銀河団に属さない同時代の銀河との間に大きな違いは見つかりませんでした。このことから現在の宇宙で銀河団に属する銀河に見られる特有の性質は、銀河団が成長していく過程で後天的に獲得したものではないかと推測されます。また発見された原始銀河団の内部構造を詳しく調べてみると、いくつかの銀河のグループを形成しているような傾向が見られました。さらに巨大な銀河団を作るために小さな銀河集団が集まる、その始まりの瞬間をすばる望遠鏡は捉えたのかも知れません。

  すばる望遠鏡では、Suprime-Cam の7倍もの視野を一度に観測できる新しい主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) の搭載準備が進んでいます。今後、HSC を用いた観測を行うことで、この時代に原始銀河団がどのくらい存在するのかを解明し、原始銀河団のより一般的な性質も明らかにすることができる、と期待されています。利川さんは「今回のような遠方原始銀河団の発見を積み重ねることによって、近い将来、銀河団形成の謎が解けるでしょう」と、将来の展望を語っています。

  この研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』の2012年5月1日号に掲載が予定されています。


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コメント 2

rtfk

宇宙は広いですね・・・想像を絶します^^)
先日以来息子と国立天文台のMITAKAというソフトを
ダウンロードして楽しんでいます♬
by rtfk (2012-04-29 04:28) 

Loby-M

>rtfkさん、いつもご訪問頂き有難うございます。
 MITAKAというソフト、面白そうですね。
 子どもといっしょに宇宙を楽しむのにもってこいですね♫

by Loby-M (2012-05-22 23:00) 

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