世界に誇るシンカンセン Part 2 [日本の技術]

 「世界に誇るシンカンセン」のPart-2、今回(完結編です)は新幹線の技術などをメーンに見てみたいと思います。(Part 1をご覧になりたい方はこちらから)

 九州新幹線のつばめ(800系)

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東北新幹線のE5系「はやぶさ」

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新幹線の技術革新

新幹線は、日本、いや、世界の鉄道史上はじめて210Km/hという高速営業速度を実現した鉄道です。 高速を達成するため、乗客の安全を守るため、そして騒音を減らすため、などなど、種々の課題・問題を克服・解決するためにさまざまな新技術が開発され導入されました。ここではその代表的なものを紹介したいと思います。

ATC(自動列車制御装置)  

新幹線という鉄道システムの中で、もっとも重要な安全システムの一つが”自動列車制御装置― Automatic Train Controlー です。時速200Km以上で走る新幹線は、運転士が前方に異常などを発見しても、急ブレーキをかけてから完全停止するまでに2Km以上走ってしまいます。 また、在来線では線路際に設置されている信号機も、新幹線のスピードでは運転士は視認することは不可能です。 これらの理由から、新幹線の開発にあたって は高度な安全を保証する運転保安システムの開発が不可欠とされました。

ちなみに、それまで在来線で使用されていたATS(自動列車停止装置)では、速度チェックは行われず信号冒進な どの異常が発生してから動作するというバックアップ・システムであったため、頻繁に大事故が発生していました。 新幹線用に開発された自動列車保安装置はレールに低周波を流し、車内信号方式(CS-ATC:CabSignal-ATC)による速度信号を走行中の列車 が読み取り、前の列車と安全な間隔を保って走るための速度が運転台に表示され、表示以上の速度になると、自動的にブレーキをかけて減速させるシステムと なっています。

0系の運転席に設置されている速度計(下の表示)とATC(1型)の車内信号表示(上の丸形の表示) ATC-1(0kei).jpg

このシステムは、前回も述べた鉄道技術研究所の技術者の一人、河邊 一(かわなべ はじめ)氏のよって開発されたもので、ATCが採用されたことにより、新幹線は世界でもっとも安全な鉄道となったのです。

CONTRAC(新幹線運行管理システム)  

東海道新幹線開業当初(1964年)、新幹線の運行管理には列車集中制御装置(CTC)が主に使用されていました。このシステムは、総合 指令室にある表示盤に運行中の全新幹線列車の位置や分岐器が開いている向き(進路)を表示させ、指令員がこれを見て各列車の運転状況を常時把握し、スイッ チによる手作業で分岐器操作や速度制限の指示などを行なっていました。

しかし、1972年(昭和47年)の山陽新幹線・新大阪駅~岡山駅間の開業を機会に、列車の増発による分岐器操作回数の増加、管轄路線の延長に伴う運行管理の困難などに対応すべく、日立製作所とともに、世界初のPTC(列車運行管理システム)である新幹線運行管理システム(COMTRAC)を1970年(昭和45年)に開発し、テスト運用の2年後に山陽新幹線・東京駅~岡山駅間の新幹線全線で導入されました。

その後COMTRACには、路線の延伸やコンピュータ技術の発達とともに運転整理機能、車両運用管理機能、設備管理機能などの機能が次々に追加され、現在では列車の運行管理だけでなく、電源設備や旅客向け設備の管理等も行う、総合システムとなっています。 COMTRACの開発のノウハウは、東北新幹線・上越新幹線に開業時から導入されたCOMTRACを総合的に発展させた新幹線総合システム(COSMOS)や、九州新幹線 (鹿児島ルート)全線開業まで新幹線と在来線を同一ホームでの乗換が発生するため両線の連携を考慮してシステムを結合した九州新幹線指令システム(SIRIUS)、現在の日本で最も規模が大きいPTCとなった東京圏輸送管理システム(ATOS)など、鉄道会社・路線の要望性に適合した様々な列車運行管理システムの開発へと引き継がれて行きました。     

大阪に設置されている新幹線第2総合指令所

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分岐器  

分岐器とは線路を分岐させることで、車両の進路を転換したり選択させることができるシステムです。 新幹線開発当時、在来線で使用されていた分岐器は10番が主流でした(10m進むと1m曲がる(開く)分岐器)。しかし、新幹線の場合、少しでも高速走行 できるように、分岐による曲線の角度を抑えるため「18番」という、かなり長い分岐器が設計・製造されました。

 

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                 分岐器の仕組み・構造図(参照サイト

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 さらに1995年になると、全長135m、 分岐器の直線側が時速270km、分岐側が160kmという高速で通過できる日本最大の「38番分岐器」(38番とは、 1m離れるのに要する線路方向の長さが概ね38mになることを意味する)が初めて開発・採用され、上越新幹線高崎駅付近の長野方面に向かう北陸新幹線への分岐用として使用されています。この38番分岐器 を初期の18番分岐器と比べると、その大きな違いが理解できます。18番では分岐側が時速80kmでしか進めなかったものが、2倍の時速160kmで高速 通過できるようにするためには、分岐器の全長が18番の71mに対して135m、また分岐器の重要な構成要素となるトングレールは18番の18mに対して 42mという長さとなっています。この長大・精密サイズの38番は、製造から組立まで6カ月と、通常分岐器の3倍以上の日数がかかることから、その技術的 困難さが分かろうというものです。

 38番分岐器

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パンタグラフ(集電装置)  

当然のことですが、新幹線は電車であり、その動力源は架線から車両の屋根にあるパンタグラフ(集電装置)を通して取り入れられます。 新 幹線の場合は、その最高速度とか、美しい空気力学的なスタイルとかに関心が集中するようですが、パンタグラフの開発なくして新幹線はなかった、と言われる くらい重要な”縁の下の力持ち”、いや、”屋根の上のヒーロー”がパンタグラフなのです。

単純に考えただけでも、151系こだま号登場以前には100Km/h程度の速度で走るのがようやくだった電車(モハ90系) の2倍以上のスピードで走る新幹線では、それまでの架線やパンタグラフではそれほど問題ではなかった架線およびパンタグラフの摩耗や架線切れが大きな問題 となることが予想されたため、これらの問題に対応したパンタグラフが開発され、0系にはパンタグラフ台を架線に近づけることで、パンタグラフ全体を小型化 し、上昇用バネやカギ外しシリンダ、平衡リンク等の台枠部分にある機器類全てを流線型のカバー内部に収容することによって空気抵抗と風切り音を減少させる 方法が取られました。    

 0系のPS200形パンタグラフ

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ちなみに、ヨーロッパあたりの高速鉄道とちがって、住宅のすぐ脇を走らなければならない日本の新幹線の騒音基準は世界一厳しく、70デシベル以下(地域I) と定められており、この騒音基準は、一般の掃除機が出す音より小さいというのですから驚きます。 新幹線の進化(高速化)にしたがって、パンタグラフの発する騒音問題が改めてクローズアップされるようになりました。 JR西日本が営業速度 300Km/hを目標として開発をした500系では、その対策としてパンタグラフ表面にジグザグ模様をつけることで微小渦を発生させ、騒音30パーセント 減少を達成しています。興味深いのは、このジグザグ模様は、フクロウが鳥の中でもっとも静かに飛ぶことをヒントに開発されたということです。(関連サイト

500系の翼型パンタグラフ 
風切り騒音防止目的の微小渦発生モールドがアウターチューブの表面にある

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パンタグラフの部品名(500系)

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  一方、JR東日本が1997年(平成9年)から導入したE2系の0番台車両と1000番台車両では、形状が全く異なったパンタグラフが採用されています。  0番台車両は200系と似た形の下枠交差形パンタグラフ(PS205)と大型パンタカバーを組み合わせたものとなっており、1000番台車両は、E3系 で採用されたシングルアーム式(PS206)をベースに作動機構を小型カバーで覆い、それを支持する碍子を翼断面形状にし、パンタグラフカバーを廃した PS207を採用しています。 このパンタグラフはJR東日本と東洋電機製造が共同開発したものであり、800系にもPS207Kとして採用されています。これらの改良により、走行時の 消費電力は200系と比較して約70パーセントにまで減少させることが可能となりました。

0番台パンタグラフ(PS205)とパンタカバー

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                                                        1000番台のシングルアーム式パンタグラフ(PS207) 

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レーザー光線を架線下部に当てることで摩耗状況をチェックするドクターイエロー(923形0番)923-0_T4.JPG

E5系のPS208型くの字主枠のシングルアームパンタグラフ 
現在は同タイプが主流となりつつある

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 なお、新幹線のパンタグラフおよび架線が、当初から架線切れを発生させない目的で開発されたにも関わらず、近年になって、 2006年1月2日の上越新幹線の架線切れ事故、また2010年1月29日の東海道新幹線架線切れ事故、さらに2011年1月15日には東北新幹線で架線 補助線切れ事故などが発生していますが、これらの架線切れ事故は、老朽化した補助吊架線とか、ボルト閉め忘れの人為ミスとかが原因となっており、誕生後 50年を迎える新幹線の整備・保全問題の見直しが必要になっていることを示しているようです。

空気バネ  

新幹線の開発にあたって、もっとも重要だったのが、蛇行動問題の解決で、これは列車の車輪が”蛇がのたうつように横方向に振動する現象で、限界を過ぎれば脱線に至るという、”弾丸列車”にとっては大きな壁の一つでした。 この問題解決に取り組み、画期的な空気バネを開発したのが、前回の記事でも紹介した鉄道技術研究所(現・鉄道総合技術研究所)の松平 靖(1910 年~2000年)の研究チームでした。 空気ばねは振動を吸収して良好な乗り心地を確保するとともに、特性として有する横剛性による横方向の復元力を持っ ています。 松平氏は戦時中、ゼロ戦の異常振動問題を解決した”振動屋”と呼ばれるほどの振動の専門家でした。その松平氏のチームが開発した空気バネによ り、新幹線は時速256Km(初回テスト時)を達成できたのです。  

新幹線0系の台車(DT200形)の構造
 
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 300系の台車

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空気バネの進化の形の一つとして、カーブを制限速度を上回る速度で走ることを可能とする、空気バネ利用の車体傾斜装置が新幹線のN700系とE5系に採用されています。

カーブを通るN700系

 

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スノープラウ(除雪装置)  

現在、東北・上越新幹線で運行されている新幹線車両は、豪雪地帯の上越や凍てつく東北など厳しい自然環境を走行するため、様々な耐寒耐雪対策が採用されています。 例えば先頭車のスカート部には、翼を広げたようなスノープラウ(列 車に取付ける除雪装置)があり、線路に降り積もった雪を高速で跳ね飛ばして走行します。また車体は、床下の機器類への雪混入を防止するため、サイドスカー トから車体底面を全てふさぎ板で覆ったボディーマウント構造を採用、主電動機への冷却用空気は車体の側面に設置した「雪取り装置」により雪と空気を分離し て供給しています。  

 分岐器へ凍結防止の散水がされる中を進む新幹線(200系) 

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E5系のスノープラウ

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車体  

最初の0系の車体設計は小田急3000形に強く影響を受けており、3000系同様、風洞を用いて開発されました。0系の先頭車はジェット機のDC-8を参考として開発されました。200 km/hの速度では0系の空力的な設計は空気抵抗の低減に本質的な影響があったといえます。

新幹線先頭車のモデルとなったダグラスDC8

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また、構造的には鋼製の構体を軽量化のために下図のよ うな張殻構造にするとともに強度、空気低抗低減、車両の気密化、機器の床下ぎ装による低重心化など特別の考慮が払われています。さらに、前後の車体間には ローリングが生じたり、曲線や分岐器を通過するときに相対位置が急に変化しないように油圧抵抗で振動を減衰する車端ダンパ装置が付けられています。

0系の車体長は24.5メートル、車体幅3,38メートルと非常に大型の流線型車体で、在来線車両に比べて全長で5メートル、幅で0,5メートル以上大き くなっています。高速安定走行のため、車輪径が大きく台車の背が高くなったことや床下に設置された電装品などのためもあって、客室床面高さも1,30メー トルと高くなっています。0系では車体材料は鋼材ですが、車体部分によって、1ミリ~6ミリという板厚の鋼材を使い分け、鋼材材質も高耐候性圧延鋼材 (SPA-C)・熱間圧延軟鋼板(SPHC)・一般構造用圧延鋼材(SS)と数種類の鋼材を使用し、当時の技術で実現可能な普通鋼製車体としては軽量化の 限界に近い公称構体重量10.5tを達成しています。

新幹線の車体構造 (参照サイト

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700系の車体間ダンパ

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列車にせよ自動車にせよ、高速で走行するためには車 体の軽量化が不可欠であり、かつ、強度を保つために剛性のある材質で車体を組み立てる必要があります。 新幹線の場合も0系・100系・400系・E1系 までは前述したように鋼材を使い分けて軽量化を図りましたが、東北・上越新幹線用の200系からは、耐雪装備による重量増加を抑えるためにアルミが使われ はじめ、以後、国鉄民営化後に開発された新幹線車両はアルミ車体が普通となり、さらにアルミ材加工法の発達により、製作費のコストダウンとさらなる車体軽 量化が図られた結果、近年の車両は初期新幹線車両に比較して著しく軽量化されています。 

新幹線の編成質量比較
0系の編成質量 970t(16両編成)
700系の編成質量 700t(16両編成)
 

 

また、列車が高速でトンネルに突入する時に発生する圧力衝撃波が伝搬し、出口側で破裂音のする、「トンネル微気圧波」( トンネルドン現象と呼ばれる)があります。この破裂音は空気鉄砲が「ポン」と音を出して勢いよく発射するのと同じ原理で起こります。この問題を解決するヒ ントとなったのが、低騒音パンタグラフ開発の時と同様に、鳥、この場合はカワセミが餌を取るために高速で水の中に飛び込む時に水しぶきが小さい理由を研 究、その穂満はカワセミのくちばしが、もっとも空気抵抗が小さい形をしていることを発見し、それに似た、先端が長く、カモノハシや鋭い流線型の形状の先頭 車が開発されることで「トンネルドン現象」は見事解決されたのです。

 

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トイレタンク  

新幹線の開発にあたって必要だったのは、これまで見てきたような最先端の技術ばかりではあ りませんでした。現在では当たり前と思われる新幹線の設備― しかし、想像もできないことですが、当時の列車のトイレでは、排泄物は走行する車両からその まま線路にまき散らされていたのです。そのため、飛散する汚物で沿線の民家の洗濯物が汚れるなどの問題が起きていました。

こ れが時速210Kmで排泄物をまき散らせば、どれだけ被害が広がるか予想もつきません。 この問題に対処するために、排泄物を車両床下のタンクに貯め、それを車両基地で処理する方式が考えられました。これは世界でも初めてのアイデアでした。  この排泄物処理施設の設計のもととなる基礎資料づくりを命じられたのが、国鉄に入社して間もない鎌田覚氏でした。蒲田氏は、東海道本線の列車のトイレに排 泄物タンクを仮設し、朝7時半から22時半まで、トイレのそばに陣取って、乗客の使用回数と時間を調べ、列車回収後は基地でタンク内の排泄物の量を量り、 サンプルをとって、夜行で東京に戻り、内容の分析をするという、涙ぐましい努力をしました。こうした鎌田氏の献身的な調査から得られたデータに基づき、世界で初めて列車のトイレ処理の問題が解決したのです。

 

初期0系の洋式トイレと山陽・九州新幹線「さくら」(800系)の多機能トイレ

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その他の新技術

これまでに見た新技術のほかにも、長野新幹線では、碓氷峠越え(勾配30‰。新幹線の最急勾配規格、15‰の倍)対策として、急勾配対応用に交流モーター駆動車両(VVVF車両)であるE2系が開発されています。また、長野新幹線では、軽井沢付近で変わる交流周波数への対応(50/60Hz、2周波数対応)、連続勾配降坂用の抑制回生ブレーキの搭載、通常線区用の回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ搭載など数々の新技術が導入されています。

碓氷峠を登る長野新幹線の「あさま」(E2系)

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高崎~長野間117.4kmを走る長野新幹線

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以上のほかにも、新幹線には多くの新技術が導入・採用されていると思いますが、一応、主だった技術を思われるものを取り上げました。

 

新幹線の車両タイプ

ここでざっと新幹線の全車両タイプを見てみましょう。

0系(1964年~1986年)

東海道新幹線開業時に開発された初代の新幹線車両)

 

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100系(1985年~1992年)

国鉄JR東海、JR西日本が設計、製造した東海道・山陽新幹線の二世代目車両

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200系(1980年~2007年) 

国鉄JR東日本が設計・製造した新幹線車両

 

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300系(1990年~2012年)     

「のぞみ」用として開発された、東海道・山陽新幹線の第三世代の車両

 

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400系(1992年~2010年) 

JR東日本の新幹線直行特急(ミニ新幹線)用新幹線電車

 

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500系(1996年~現在) 

JR西日本が運用している新幹線用電車

 

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600系 (空き番) 700系(1999年~現在)     

1999年に営業運転を開始した、東海道・山陽新幹線の第四世代の車両

 

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N700系(2007年~現在)     

東海道・山陽新幹線の第五世代の車両、および九州新幹線の第二世代の車両

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800系(2004年~現在)

JR九州の新幹線車両

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900系 ドクターイエローと称される新幹線電気軌道総合試験車 

初代の941形

 

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最新型の923形

 

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E1系(1994年~2016年(予定)) 

JR東日本の新幹線車両(上越新幹線用) 

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E2系(1997年~2016年(予定))    

JR東日本の新幹線車両(長野新幹線「あさま」、東北新幹線「やまびこ」用)

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E3系(1997年~2014年(予定)) 

JR東日本の新幹線直行特急(ミニ新幹線)用新幹線車両

 

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E4系(1997年~2005年)    

JR東日本)の新幹線車両 愛称MAX。「カモノハシ」「巨大イカ」とも呼ばれる

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E5系(2011年~現在) 

JR東日本)の新幹線車両 最高速度320km/h

 

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E6系(2012年度末~) 

JR東日本が2012年末から運用開始予定の秋田新幹線用新幹線電車

 

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E9事業用車(JR東日本のみ) 

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新幹線の海外輸出

日本の新幹線(車両および技術)が海外へ輸出された国、それと今後輸出される可能性(もしくは現在交渉中)のある国などの現状について説明します。

台湾 (台湾高速鉄道)  

台湾の南港~高雄間のうち、台北-左営の約340kmで運行中の高速鉄道路線(台湾高速鉄道)は、独仏連合との熾烈な受注競争の末、日本連合が最終的に逆転、受注に成功したプロジェクトです。 この高速鉄道は新幹線のシステムを導入して建設されており、車両には700系をベースとした700T型が用いられています。日本が受注した背景には、技術や安全性もさることながら、台湾は歴史的にも日本に対し親近感を持っていること、地理的に日本と類似した条件にあること、地震に備えるシステムが構築されていることなどが挙げられています。    

    

 

台湾で運行されている700T系

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  地震早期検知システム(ユダレス)については、冒頭で述べましたが、1999年9月21日に発生した、死者約2500人を出した台湾大地震の影響もあり、 欧州方式は地震に対する防御策が十分ではないと台湾側では判断し、最終的には台湾高鉄の協力先をユレダスの実績のある日本連合に切り替えることに決定した ものです(実際には日本側が提示した資金面での優遇措置を加えたことが契約締結の決め手となったと言われている)。最終的に車輌は日本、配電・制御は欧 州、土木工事は国際入札というミックス入札で終わっています。
 

台中駅を発射する台湾新幹線700T系
 
 

 

  台湾高速鉄道は2005年10月の開業を目指して建設が進められていましたが、台湾高速鉄道のコンサルタント業務を欧州連合が先に受注していたため、施工 方法やスケジュールの調整が難航、また建設工事の一部区間を受注していた韓国の現代建設による路盤の手抜き工事問題が発覚するなど、各国企業の思惑が入り 乱れたため、開業時期が徐々に遅れ、結局2007年1月5日に板橋~左営間で仮開業し、全線開通(正式開業)は2007年3月となっています。 なお、台湾高速鉄道の顧問には、日本における新幹線計画の実現に大きく貢献した島秀雄の次男島隆が就いています。

 

 

イギリス(オリンピックジャベリン)  

2009年からイギリスのロンドン-ケント州間を高速新線 High Speed 1(HS1、旧名CTRL: Channel Tunnel Rail Link)経由で運行される高速列車 "オリンピックジャベリン" の専用車両クラス395として、日立製作所が29編成計174両を受注(2億5千万ポンドで28編成の受注)し、2007年8月から引き渡しが始まりました。

車両はHSBC Rail UKが保有し、サウスイースタンが列車の運行を担当しています。 クラス395電車は、日立製作所がA-trainの技術を用いて製造した高速車両で、UIC規格路線を走る初めての日本製高速鉄道車両であり、HS1上においてTGVベースのユーロスターと混在して運行されます。

営業最高速度は、HS1上で140マイル毎時 (225km/h)、在来線では70mph (112km/h) で、将来的には時速170mph (275km/h) を目標としています。 なお、クラス395は2010年度の「第39回日本産業技術大賞」において、「英国High Speed 1路線向け高速鉄道車両(Class395車両)の開発」で最優秀賞である「内閣総理大臣賞」を受賞しています。この賞は革新的な大型技術、システム技術の開発・研究に対して授賞されるものです。 ちなみに、英国の高速鉄道網は、将来2000Kmまで拡大する計画だそうです。   

クラス395

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英国サウサンプトン港に到着したクラス395車両

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在来線と高速列車(クラス395)が行き交う英国の鉄道 



 

 

中国(中国高速鉄道CRH2型電車)  

中華人民共和国は京滬高速鉄道など8路線、計7千kmの旅客専用線(最高速度350km/h)のほか、中国全土に高速鉄道網の建設(最高速度200~350km/h)を進めていますが、国産高速列車として開発された「中華之星(DJJ2 型)」が高速列車としては致命的な電気系統やブレーキ系統の故障などが頻発、信号システムが列車の運行と合わないなどという運用上のトラブルも相次ぎ、営 業運転開始後(最高速度は下方修正され160Km/hにとどまった)もトラブルが頻繁に発生したことから、2006年8月2日の運行を最後に運用を停止 し、現在は瀋陽の車両基地に留置されていて営業運転再開の目処は立っていません。

中国の鉄道省は「中華の星の最高時速は160km/hでしかない」との理由で、研究開発の中止を決定し、日本の新幹線やドイツ、フランス、カナダなどからGTVなどの高速列車の技術を導入する方針へと転換しています。 この方針にしたがって、2007年には、JR東日本のE2系(川崎重工業製)をベースにしたCRH2型「子弾頭」を導入。また、スウェーデンのRegina(カナダ・ボンバルディア製)をベースにしたCRH1型(CRHは“China Railway High-Speed”の略)、イタリアのペンドリーノETR600(フランス・アルストム製)をベースにしたCRH5型も導入されています。

中国高速鉄道のCRH2型 E2系1000番台新幹線電車がベースとして川崎重工業が製造  CRH2.jpg  

なお、北京オリンピックに合わせて開業した北京~天津間の京津都市間鉄道には、CRH2型の旅客専用線仕 様も導入されましたが、設計速度を超過し運転していたため、日本側からの抗議を受けて他線区に転配し、武広線では250km/hで運転しています。  2009年に開業した武漢~広州間の武広旅客専用線(350km/h)にはドイツのICE3(シーメンス製)をベースにしたCRH3型が導入されています。どの国からも、一部は完成車で納入され、残りは現地組み立て、または技術供与による現地生産となっています。

 中国の新幹線技術盗用問題

 日 本のJR各社のうち、JR東日本が中国からの受注に積極的なのに対し、台湾への技術供与を行ったJR東海会長・葛西敬之は、法整備が不十分な中国において トラブルが発生した場合の責任問題や、中国側の車両購入条件である”中国へのブラックボックスのない完全な技術供与’では技術流出の恐れがあるとして反対 の意見を表明しています。

また2010年4月には葛西会長が「中国の高速鉄道は安全性を軽視することで、限界まで速度 を出している。技術も『外国企業から盗用』」と主張したことに対し、中国側の何総工程師は「我々が求めている技術は、日本のような島国向けの技術とは異な る」と主張し、「安全性が保証されている中国の高速鉄道技術は既に世界をリードする地位を獲得した」などと反論しています。

しかし、中国鉄道部科学技術局長などを務めた周翊民は、中国紙『21世紀経済報道』に対し、「世界一にこだわり、設計上の安全速度を無視し、日独が試験走行で達成していた速度に近い速度での営業を命じただけで、中国独自の技術によるものではない」と暴露し、「自分(中国)の技術でないので問題が起きても解決できない。結果の甚大さは想像もできない」と指摘(参照記事)。

ま た米国議会の超党派諮問機関「米中経済安保調査委員会」は2011年10月26日、日本の新幹線技術の中国側の取得について「中国企業が外国技術を盗用し た最も酷い実例」と報告しています。 すでに周知の事実ですが、米国の議会で公式に発表された見解であり、重要だと考えるので引用します。

中国の新幹線技術盗用は「国家の意思」 米機関が国有企業の分析報告

 米 国議会の超党派諮問機関「米中経済安保調査委員会」は26日、中国の国有企業の分析報告を発表し、中国の国内総生産(GDP)の50%が国有企業の活動に よるという見解を明らかにした。同報告は中国の国有企業群が商業判断よりも共産党や政府の意思を優先させるとみなし、日本の新幹線技術の盗用も中国側の国 家意思だとの判断を示した。 (中略) 同報告は、国有企業が政府の意思で外国の高度技術を入手するために利用されるとも指摘し、その実例として日本の新幹線技術が中国側に渡った経緯を詳述し た。 まず、日本の新幹線技術の中国側の取得について「中国企業が外国技術を盗用した最もひどい実例」と明記。2004年の中国側の入札に日本の 川崎重工業などが応募して、国有企業の「中国南車集団四方機車車両」と提携、中国が日本から新幹線車両を直接輸入する一方、ライセンス生産を進めたプロセ スを述べている。  同報告はそのうえで中国側が昨年までに新幹線「はやて」に酷似した高速列車を製造して、「中国の独自技術による」と宣言したことを技術の盗用とみなし、 「中国政府が求める外国の技術を取得する過程では中国の国有企業が決定的な役割を果たす」として、日本の新幹線技術の取得も中国側の国家や政府の意思だっ たという見解を明示した。参照記事)。

これらの暴露、指摘を裏付けるかのように、2011年7月23日に浙江省温州市で、死者43人に負傷者200人以上を出したと言われる大事故(追突脱線事故)が発生しています。

 

死者40人以上、負傷者200人以上を出したと言われる中国新幹線事故

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特許問題

ま た、最近の報道では、現在、米国、日本、ブラジル、ロシア、欧州など5か国で21件の高速鉄道に関する技術の特許を申請すべく手続き中とのことです。上に 述べた新幹線技術盗用問題からすれば、”当然”(?)とも思える中国のやり方ですが、”あくどい”と考えるのは管理人だけではないと思います。関連記事

 

ベトナム

ハノイ~ホーチミン間 (1630km) を最高速度350km/hで結ぶベトナム高速鉄道計画があり、完成すれば現在30時間以上掛かっている所要時間が10時間弱に短縮されると期待されていま す。資金は日本の政府開発援助が充てられる予定で、新幹線方式の導入が検討されていましたが、GDPの5割を超す総事業費560億米ドルという資金調達の 困難さから、2010年5月の国会で否決されています。しかし、ベトナム政府は日本の新幹線方式を採用するとしており、国際協力機構(JICA)が 2011年半ばに事業化調査(FS)を開始しています。ハノイ~ホーチミン間を一度で建設することは資金の問題もあることから、FSではまず、ハノイ~ビ ン、ホーチミン~ニャチャン間の優先着工区間を対象に行われています。

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しかし、将来、仮にホーチミン~ハノイ間全線が開通したとしても新幹線で6時間かかる上、片道100米ドル の旅客機(所要2時間)に対抗するのは難しいと指摘されています。また、中国は、自国で開発した高速鉄道をベトナムに敷設しようという動きを始めており、 中国を中心とするユーラシア大陸全体への経済および政治的な影響力を強めようという戦略に則ったものであり、その構想は、中央アジアを通じてヨーロッパに まで達するルートにおよび、東南アジアへはベトナムを通してシンガポールまで達するというもので、ベトナムとしても中国からの経済援助は喉から手が出るほ ど欲しいという事情があるので、今後、同国の高速鉄道プロジェクトはどう変転するか予測を許さないというのが実際のところでしょう。 タイ  タイの高速鉄道計画は、技術を提供する中国が、自国で開通したばかりの7月に新幹線で大事故を起こし、日本の事故ゼロの新幹線が再度売り込みに動き、日 本勢にやや有利かと思われましたが、2011年末に中国の技術でタイの高速鉄道の建設は進められることになったようです。2011年12月26日の報道で は、タイ・中国の両国は、バンコク~チェンマイ線の高速鉄道の共同開発に関する覚書に調印したと報じられています。(関連記事

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インド

2007年5月、インド国鉄が計画してる高速鉄道網は、アフマダ~バード~ムンバイ間、アムリツァル~ ニューデリー~ラクナウ間、パトナ~コルカタ間、チェンナイ~バンガロール間をつなぐもので、2012年1月12日に、日本政府はインド政府との間で継続 的な協議の場を設け、高速鉄道技術を有する欧州勢に対抗する目的で、担当省の事務次官級による検討委員会を設置することで合意にこぎつけています。トリベ ディ鉄道相は、日本の新幹線の安全性などを高く評価し、「日本の経験を自分たちのものにしていきたい」と述べているそうなので、日本の新幹線を売る込める 可能性は大きいと言えます。

 

米国・カリフォルニア州

カリフォルニア州高速鉄道局(CHSRA:California High-Speed Rail Authority)が推進しているプロジェクトで、2008年末に99億5千万ドルを投資する提案1Aが、州民投票で承認され、現在、高速鉄道局が最終 的な計画・設計・環境保全対策を進めている。 建設されると、最高350km/hの高速列車がサンフランシスコとロサンゼルスを2時間半で結ぶと予想され ている。計画されている鉄道は他のカリフォルニア州の主な都市、サクラメント~サンノゼ~フレズノ~サンディエゴなども結ぶ予定です。アメリカ西部は地震 も多く、開業以来地震に対する対策を採ってきた新幹線はその点で各国の高速鉄道よりも優位なのでは、との声もあり、JR東海が積極的に新幹線を売り込んで いますが、中国勢の売り込みも激しく、どの国が落札するか予想はつかない状態です。

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 カリフォルニア高速鉄道およびデザートエクスプレスの計画路線図

 

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ブラジル  

ブラジル新幹線は、2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)に向けた目玉プロジェク ト。 日本は国土交通省と三井物産、三菱重工業、川崎重工業、東芝が官民共同で売り込んでいます。リオデジャネイロ市~サンパウロ市~カンピーナス市の主要3都 市間を最高時速約300キロ、2時間半で結ぶ計画で、総延長は約510キロで東海道新幹線とほぼ同じ。リオデジャネイロ~カンピーナス間は標高差が800 メートルもあり、長野新幹線の高崎駅~軽井沢駅間などの大きい標高差における建設、運行のノウハウを蓄積している新幹線は、その点で各国の高速鉄道よりも 優位との声もあるそうです。

 

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以上のように、プロジェクトそのものは結構なものですが、しかし、リオデジャネロ~サンパウロ間に鉄道を敷 く場合、リオデジャネイロを出てすぐに800mの標高差がある海岸山脈を越えて走ることになり、2都市間に鉄道を建設するために必要なトンネルや高架は合 わせて200kmにもなり、また沿線の半分程度の区間は工場地帯を走るため、地価が高く用地買収の困難さも予想されており、ブラジル政府が見積もっている 総工費約1兆7千億円では完成できない(建設費増大)との予想もあります。

また、本プロジェ クトを落札した企業には40年間の事業運営が求められており、運賃上限は1kmあたり0.49(約21円)レアルと設定されています。 日本やフランスの企業連合は、ブラジル政府の高速列車需要予測が甘く、さらに用地買収には困難が予想されるため、工事延期で追加負担が発生する恐れがある などリスクが大きく、収益が見込めないとし、応札を見送る方針を示しており、唯一、入札に参加する意欲を示していたのは政府がバックアップしている韓国グ ループでしたが、ブラジル政府は韓国一国だけが入札参加するのを嫌って入札を延期したと言われています。

また、KTX(韓国高速鉄道)は2011年2月に 脱線事故を起こしたことからブラジル側は韓国の高速鉄道技術の信頼性に疑問をもったとも言われています。その後、韓国政府は、「ブラジル政府が事業費をあ まりにも低く決めたため、収益性がないと判断し、入札に参加しないことにした」と発表したと報道されています(関連記事)。

                  2011年2月11日に発生した脱線事故で大破した電車

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 ブラジル高速鉄道計画を巡っては2度の延期を経て2011年7月に入札が実施されましたが応札者がなく、不調に終わったため、ブラジル陸運庁は高速鉄道事業を、①鉄道の設計や運営部分と、②施設の建設・保有を受け持つ部分に分割する「上下分離」方式の導入に方針転換。

ま た330億レアル(約1兆3900億円)としてきた事業費も、増やす方向で見直しているそうです。 当初は2014年のサッカーワールドカップ(W杯)時 の開業を目指していたが、完成は19年以後にずれ込む見込みですが、建設費が大幅に増加するとの予想などから、日欧が入札に参加する可能性は極めて低いた め、はたしてどこの国の企業グループが受注するのか、いつ完成するのかなどまったく予想がつかない”五里霧中”の状態であるというのが実際のようです。最 終的には、なりふりかまわぬ売り込みをしている中国が落札するかも知れません。

 

ロシア  

ロシアは米国についで世界で2番目に大きな鉄道網(総延長8万6千Km)を保有する鉄道国 であり、現在、モスクワ~サンクトペテルスブルク間高速鉄道運行プロジェクト(路線距離645km、最高速度350km/h)が進行中です。 ロシアの場合もブラジルと同様に、2018年に同国で開催されるサッカー・ワールドカップに間に合わせるべく、上に述べたモスクワ~サンクトペテルスブル グ間の他にも、モスクワ~ニジニノブゴロド間、ニジニノブゴロド~カザン間(総延長2千キロ)の高速鉄道プロジェクトが進められています。これらの高速鉄 道プロジェクトの総工事費は300億ドル(2兆4千億円)と推定されています。 ICE3をベースとしたロシアの高速列車はモスクワーペテルスブルク間を最高速度250km/hで走っている

 

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 また、モスクワ~ウラジオストック間を結んでいる路線距離世界一(9千 288km)のシベリア鉄道についても、一部高速新線(最高速度350km/h)の建設を含む近代化計画が検討中されています。 ほかにも時速160km~200kmの高速鉄道をモスクワ~ カハルコフーロストフ~ クラスノダール~ アドラー間、それにモスクワ~ ヤロスラフル間に建設すべく計画が進められています。 そのほかにも、高速国際列車計画もあり、これはロシア~ ミンスク(ベラルーシの首都)~ ワルシャワ~ ベルリン間、モスクワ~ キエフ(ウクライナの首都)間、モスクワ~ リガ(ラトビアの首都)間、サンクトペテルスブルグ~ タリン(エストニアの首都)間も検討されており、その他の準高速鉄道や関連プロジェクトを含めると、もし、これらが全て実現すれば、先般中止になった米国 フロリダ高速鉄道(事業費33億ドル)の5~10倍のビッグ・高速鉄道プロジェクトとなるそうです。

 

加熱する世界の高速鉄道市場  

MarketResearch.comが2011年に発表した調査報告書によると、高速鉄 道製造の世界市場は2005年に2千440億ドル(19兆7千億円)。これが2015年には9千70億ドル(73兆3千億円)に拡大するとの予測です。
経産省が水関連のインフラ輸出でよく引き合いに出す数字に、「世界の水ビジネス市場は2025年に87兆円」というものがあります。水という人々の生活に欠 かせない分野にほぼ匹敵するサイズの投資市場が高速鉄道にあるということになります。
この大きな市場は米国などの高速鉄道の後進国、それも多数の国が、日仏などの先進国にキャッチアップする動きのなかでできあがってきます。世界全体は高速 鉄道のキャッチアップトレンドの中にあり、毎月のように世界の各地域から関連のニュースが飛び込んできます。日本の車輌製造業界は中長期にわたって市場拡 大の恩恵に与る可能性があります。同様に事業機会はフランスのアルストム(Alstom)、ドイツのシーメンス(Siemens)、カナダのボンバルディ ア(Bombardier)、スペインのタルゴ(Talgo)、中国の南車や北車などにもあり、受注競争は熾烈化するでしょう。 以上のように、どうも日本の新幹線は世界の高速鉄道市場参入に中国やフランス・ドイツ陣営の後塵を拝しているようですが、その理由の一つは新幹線の価格 が、(とくに新興国や途上国にとっては)高すぎるという理由があるようです。

 

新幹線の事故

ここで日本の新幹線の事故を見ると、乗客が死傷する事故は幸いゼロですが、それでも現在までに下記の重大事故が発生しています。

1973年(昭和48年)に東海道新幹線の大阪運転所(鳥飼基地)からの回送列車が脱線

1974年(昭和49年)に東京運転所(品川基地)分岐線と新大阪駅構内で相次いで発生したATC異常信号

1991年(平成3年)9月30日、ひかり291号(100系X編成)が、三島駅まで車輪を固着させたまま走行。          最高速度はATC頭打ち速度の225km/hにまで到達していた。

1997年(平成9年)、山陽新幹線の岡山新幹線運転所内で過走して脱線した事故。

1999年(平成11年)、山陽新幹線福岡トンネルで通過中の列車にコンクリート片が落下し屋根が破損。     

2004年10月23日に発生した上越新幹線脱線事故では、新潟県中越地震の おり、「とき325号」(10両編成、200系=K25編成)が長岡駅の手前付近を約200km/hで走行中に脱線。これはまた新幹線史上初の営業運転 中、しかも高速走行中の脱線事故となりました。この時、脱線の衝撃で、レールの道床の締定が多数外れ、一部のレールはねじ曲がるなどの大きな損害が出まし た。脱線原因については、直下型地震であったため、ユダレスの警報よりも地震の直撃が早かったためと指摘されています。

なお、列車がこの規模の地震に震源地付近で直撃された場合、たとえ停車していたとしても脱線は免れ得ないと考えられています。 とき325号の例では、時速200kmで脱線したとはいえ、奇跡的に死者・重傷者は生じませんでした。これは、編成全体の横転などには至らなかったこと、および、数分の差で対向列車との衝突も免れるという幸運も重なったことによります。なお、横転が生じなかった理由には、逸脱した車両も上下線の間にある排雪溝にはまり込んだまま滑走したためですが、一歩違ったら中国の高速列車事故なみの大事故になった可能性があったわけです。

また、在来線と直通運転する山形新幹線では、つばさ号にも踏切事故がしばしば発生しています が、これは当然起こるべくして起こっている事故であると言えます。新幹線建設時の目標の一つは、踏切事故を防ぐために高架橋などを多用した”踏切のない” 鉄道”なのですが、踏切のある普通の在来線に乗り入れれば踏切事故が起こるのは避けれません。

 

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外国の高速列車事故

ICE(Intercity-Express): 1998年6月3日にドイツでヨーロッパ高速列車(ICE)の脱線事故「エシェデ事故」が発生、死者約101名・負傷者約200名(約80人の重傷者)を出しています。(事故原因は弾性車輪の金属疲労による亀裂) エシェデ事故

TGV(フランス高速鉄): TGVの歴史の中では死亡事故を含む重大事故が多数発生していますが、LGV区間での死亡事故は発生していません。LGV区間では脱線事故3件を含むいく つかの事故が270km/h走行中に発生していますが、いずれも車両が転覆するほどの重大事故ではありません。在来線区間では踏切などの平面交差も存在す るため、TGVも通常の列車と同じように事故が発生するリスクがあります。

 

新幹線・アラカルト

0系運転席

 

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0系運転席パネル

 

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500系運転席

 

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500系のシンプルな運転席パネル

 

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E5系運転席

 

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             グランドひかり (1989年から2002年まで東海道・山陽新幹線で営業)

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二階建て食堂車内部(1999年)

 

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展示されているグランドこだまの二階建て食堂車

 

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               0系客席(左) と500系客席

 

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東北新幹線 E5系 はやぶさ グランクラスの 座席

 

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プロジェクトXで紹介された新幹線の開発物語



たけしの万物創世紀 新幹線(ちょっと古いです)


2012年から営業開始予定の最新鋭のE6型(大宮駅で発車待機中のE6系S12編成先行量産型) E6series.JPG

 

最新型のE6系の客席 こがね色の普通車客 と グリーン車

  E6isukogane.jpgE6isu.jpg

 

おわりに

前回(Part-1)からの特集:『新幹線・イズ・ナンバーワン』『世界に誇るシンカンセン』のしめくくりを書くにあたって、まず最初に、新幹線の誕生に 決定的な役割を果たした国鉄の技師長、島秀雄氏がどれほどの真剣さで新幹線の開発にあたっていたかを紹介したいと思います。

「そ の(新幹線)開発にあたって島秀雄は、臆病なほどに新技術の採用には慎重であり、実に緻密な実験をくり返し命じた。部下の技術陣にすれば、じれったくてし かたがなかったようだが、彼は鉄道が大勢の尊い人命を預かるものであることから、どんな瑣末なことも、決して見逃さず、徹底した納得を欲した」(「新幹線 の生みの親 島秀雄」より)。

新幹線が1964年の開業以来、列車走行時の事故で死傷者ゼロという、時速200Km以上で走る高速列車としては奇跡的といえるほど”安全な鉄道”であることの原点は、この島技師長の安全に対する真剣な姿勢があったということが分かると思います。  島秀雄氏が、開業10年後(1974年頃)に述べた「不肖の息子・新幹線を叱る」というある月刊誌への寄稿文の中には、 「よく皆さん近ごろ新幹線は疲労期に来たとおっしゃいますが、わたしは“倦怠期”だと思ってるんですよ。(中略)目にみえるそうした物質の損耗はそれ相応に調べる道もありますし、事前に手を尽して取替えるべきものは取替えるように初めからなっているんです。それをぬかりなくやる、見逃さないというのが大事なんです。見逃すということの中には馴れによる油断もあるでしょうし、世の中がわれわれが期待した以上に激しく変ってしまったこともあると思うのです。(中略) 昔のようにいわゆる“世のため人のため”一所懸命働く気風はうすれましたし、(中略) 年季を積むということに対して大して誇りも持たなければ、他人のそうした行為に敬意も払わない。ですから機械化をすすめても、それを動かす肝心の人間のこころがそうなりますと、機械を正常に補修したり改良したりする対策が後手後手になったり、一時的に繕うことに終ってしまうのではないかと思うのです。新幹線のような、いくつかのサブ・システムを組み合わせて作ったものは、全部が、常にうまく働くように保つには非常な努力が要請されます。うまくいくのが当り前と思ったら、これはもう倦怠期じゃないでしょうか。 (中略) いうまでもないことですが、コンピュータは神様ではありません。(中略) わたしどもはじめ新幹線をやりましたときは、そんなことをやった鉄道 は世界に一つもないのだから 、(中略) 部分的には大丈夫だという自信をもってやるけれども、総合的には世界的に未経験の分野に踏み込むのだというので 非常に慎重でしたね。ところが10年も経つと、10年間経ったのだから11年目も同じだろうと、つい慎重でなくなることもあり得るのです。ところが11年 目に入るというのは、やはり11年目という世界的に新しい経験に入っていくわけですからね。(中略)だから常に自分たちが世にさきがけて新しい経験を作っ ていくというパイオニア精神と、慎重な責任感を持ちながらやっていかなければならないと思うんです。」(『中央公論経営問題』所収) と書いてあるのです。(下線Loby)

2011年3月11日に発生した東日本大地震にともなう大津波で、福島 原発がメルトダウンを起こして”原発神話”は存在しないということを、もっとも悲惨な形で日本人が知ったように、”新幹線神話”というものも存在しないと いうことをしっかり認識しなければならないと思います。新幹線が、車両のハードウェアだけでなく、線路やトンネル、架線、送電、制御システム、時刻ダイヤ など全てを含む総合交通システムであるならば、これらの全てのハード、ソフトについて絶え間ないチェック、メインテナンス、改善が必要なことは勿論、それ らに携わる人間(職員、技術者)などへも常に”大勢のお客様の安全のため”という新幹線が生まれた時の根本精神を教え、伝え ていかなければ、いつ大惨事が起こらないとも言えないと思います。 新幹線が、戦前・戦時中の日本の科学技術力の結晶ともいえる産物であることは、今回、2回にわたってこのブログで書き、またこれまでも多くの本や資料に詳 しく書かれていることで分かることですが、これは、別の言い方をすると、”新幹線は戦前からの遺産”であると言えることだと思います。

新 幹線が開業してから、はや50年近くになります。日本の新幹線の成功に刺激されて、その6年後にイタリアのディレティッシマが建設され、さらにその6年後 にフランスのTGV、ドイツのICEの建設が始まりました。 新幹線は世界の高速鉄道の歴史を変えたわけですが、新幹線が”世界でもっとも安全な高速鉄道”であることを維持し続けるためには、この戦前からの遺産を食 いつぶすことなく、滞ることなく技術革新を続けるとともに、新幹線の運転、管理、保全などの職務に関与する全ての人たちが、島技師長が「大勢の尊い人命を 預かるもの」と安全性に徹底した精神をしっかり受け継いでいくことだと思います。

 富士山を背景に走る新幹線

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世界に誇るシンカンセン 終わり

参考資料:

            新幹線の歴史(Wikipedia)        
            JR東日本-車両図鑑        
            証言記録 国鉄新幹線        
            北陸新幹線における技術革新        
            2015年の高速鉄道市場73兆円        
             ロシアは2兆4,000億円の投資を予定        
            北陸新幹線における技術革新        
            ビジネス特急「こだま」が走った頃

       新幹線の生みの親・島秀雄        
            新幹線を創ったサムライたち        
            北山敏和の鉄道いまむかし

            新幹線発達史        
            高速鉄道の研究――主として東海道新幹線について


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song4u

いつもながらの詳細な調査に基づく貴重な記事ですね!
今回の記事も大変興味深く参考になりました。
本当にありがとうございます!
by song4u (2012-01-29 12:10) 

rtfk

毎週のように新幹線に乗っていますが
今回の記事を拝読して改めて目を当てる点が
違ってくるように思います(^w^)
有難うございます(^^)

by rtfk (2012-01-29 15:13) 

seawind335

やはり、「技術」には「心」が無いといけませんね!
素晴らしい記事で、とても興味深く読めました。
by seawind335 (2012-02-04 09:29) 

Jetstream777

これはブログの域を超えたレポートですよ(@_@;)
技術だけでなく魂が入らないと安全は確保されないですよね。
また、初代新幹線がDC8とは、なるほどそっくり。(笑)
by Jetstream777 (2012-02-25 12:05) 

Loby-M

>song4uさん、ご訪問有難うございます。
 コメントが大きな励みになります。
 
>rtfkさん、ご訪問有難うございます。
 新幹線について書くにあたって、私自身たいへん勉強になりました。

>seawind335さん、茶道、華道、武芸、科学などどの世界でも心が重要不可欠だと私自身思い知らされました。

>Jeststream777さん、ご訪問有難うございます。
 まったくおっしゃる通りです。最先端科学の粋を集めた乗り物と言っても、作ったのも管理するのも人間、利用するのも人間ですのでやはり魂(心)が不可欠ですね。
 DC8のことは私も今回知りました^^

by Loby-M (2012-02-26 08:10) 

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